2017年8月22日火曜日

『対話のために』読書会報告

 今年の5月、『帝国の慰安婦』を高く評価する論者たちによる書籍『対話のために 「帝国の慰安婦」という問いをひらく』(浅野豊美・小倉紀蔵・西成彦編著、クレイン)が刊行された。私たちは去る7月24日に同書を題材として読書会を開催した。 当日は従来からの読書会参加メンバー以外の方々もあわせて17名が参加した。15の論考のうち「普遍的価値の国民的価値からの独立と再融合への道」(浅野豊美氏)、「慰安婦をめぐる歴史研究を深めるために」(外村大氏)、「「帝国の慰安婦』と「帝国の母」と」(加納実紀代氏)、「『帝国の慰安婦』のポストコロニアリズム」(上野千鶴子氏)、「慰安婦問題における人間と歴史」(小倉紀蔵氏)の5つについて、あらかじめ指名された報告者が報告を行い、その後討論を行った。
5つの報告についてはおってその概要を当ブログにて明らかにする予定である。全体としての本書について、多くの参加者が共通して抱いたのは、本書では『帝国の慰安婦』に対する批判的考察を公表した者たちがほぼ完全に匿名化されていることへの違和感である。そのため、具体的な論点についての議論に進展がほとんど見られない。本書のタイトルが「対話」を謳っているだけに、これは残念なことである。
(文責:能川 元一)



2017年3月9日木曜日

GAHT裁判に日本政府が意見書

 アメリカ・グレンデール市に設置された、日本軍「慰安婦」被害者の記念碑「少女像」の撤去を求めて「歴史の真実を求める世界連合会」(GAHT)がグレンデール市を訴えていた裁判のうち、連邦裁判所を舞台とする訴訟は一審・二審とも原告敗訴に終わり、GAHTは今年1月に連邦最高裁に上告していました(GAHTサイト内「2017年 念頭のご挨拶」)。

 ところが、日本政府がこの訴訟に、GAHTの主張を支持する第三者意見書を提出するというかたちで関与したことが明らかとなりました。この関与を伝える日本の報道は以下のとおりです。

・『朝日新聞』 2017年2月27日 政府、米慰安婦像訴訟に異例の意見書「上告認めるべき」
 米ロサンゼルス近郊グレンデール市に設置された旧日本軍の慰安婦を象徴する「少女像」をめぐり、米在住の日本人が撤去を求めた米国の訴訟=一・二審は原告敗訴、上告中=で、日本政府が米連邦最高裁判所に「上告が認められるべきだ」とする第三者意見書を提出していたことがわかった。在外日本人が起こした訴訟での意見書提出は異例だ。
・『産経新聞』 2017年2月25日 米グレンデール慰安婦像撤去訴訟、日本政府が米最高裁判所に審理求める意見書提出
 米カリフォルニア州グレンデール市に設置された慰安婦像の撤去をめぐり、地元の日本人たちが米連邦最高裁での上告審を求めていることについて、日本政府が「請求は認められるべきだ」との見解を表明した意見書を連邦最高裁に提出したことが24日、分かった。日本政府が連邦最高裁に第三者意見書を提出することは異例。米国内で相次ぐ慰安婦像・碑の設置に関し、日本政府の意見表明の機会になると判断したようだ。
・『産経新聞』 2017年2月25日 日本政府が異例の対応 米地方自治体の介入看過できず、慰安婦像撤去訴訟で
 2014年2月から続く米カリフォルニア州グレンデール市の慰安婦像撤去訴訟で、日本政府が米連邦最高裁に第三者意見書を提出する異例の対応に乗り出した。米地方自治体が慰安婦問題に関し、連邦政府の専管権限である外交方針と異なる動きをするだけでなく、日韓間で政治問題化している慰安婦問題に介入することを、看過できないと判断したとみられる。
・NHK NEWS WEB 2017年2月28日 政府 米での慰安婦像撤去裁判 上告認めるよう意見書
アメリカ・ロサンゼルス近郊に設置された、慰安婦問題を象徴する像の撤去を求めて、日本人住民らが上告した裁判をめぐり、日本政府は連邦最高裁判所に対し、「像の設置はアメリカ政府も支持する日韓合意の精神に反する」などとして、上告を認めて審理を行うよう求める意見書を提出しました。
以上、いずれも記事のリード文のみ引用しました。朝日と産経がともに「異例」の措置であることを伝え、特に産経は意見書提出を歓迎する姿勢を明確に打ち出しているのに対し、NHKは「異例」という評価は行わず、結びの段落では日本政府の狙いについて伝える記事となっています。この他、『時事通信』『日本経済新聞』が事実をごく簡単に伝える記事を掲載しています。

 従来も日本政府は海外での右派の「歴史戦」活動を支援する動きを見せていましたが*、ここまではっきりと踏み込んだ関与を行ったのは特筆すべきことだと思われます。外務省公式サイトでもこの意見書が公表されています。GAHTなどとの連携はもはや水面下で行われることではなく、公然と行われる活動として位置づけられるようになったわけです。この意見書に関するGAHTサイドの声明はこちらです。

 歴代内閣が踏襲してきたいわゆる河野談話には、「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」という一節があります。この「決意」を前提とすれば、日本軍「慰安所」制度の被害者を記憶するための活動はむしろ日本政府としても歓迎すべきことであるはずです。

 グレンデール市などで行われている「慰安婦」モニュメントの建立を「日本の名誉を貶める運動」であるとするGAHTの主張は、日本軍「慰安所」制度が女性に対する重大な人権侵害であること、また当時の日本政府と日本軍がその責任を負うべきであることを否認する、歴史修正主義的な認識を前提しています。安倍政権は河野談話やアジア女性基金を対外的な弁明に利用する一方で、国内的にはGAHTと同じような歴史修正主義的認識を披露してきました。今回の意見書提出は、安倍政権がそうした歴史修正主義への加担をアメリカの司法という場でも行ったことを意味します。これは単に「異例」な措置であるだけでなく、正義に反する行いであり、2015年末の日韓「合意」の欺瞞性を示すものでもあると言わねばなりません。

* この点については、山口智美、能川元一、テッサ・モーリス−スズキ、小山エミ『海を渡る「慰安婦」問題―右派の「歴史戦」を問う』(岩波書店、2016年)の第2章(小山)と第4章(山口)を参照されたい。

(文責:能川 元一)


 

2017年3月8日水曜日

「歴史戦」報告

 遅くなりましたが、2016年11月23日に開催した読書会についての報告をさせていただきます。

 この日は2016年6月に岩波書店から刊行された『海を渡る「慰安婦」問題―右派の「歴史戦」を問う』について、著者の一人である能川が報告するというかたちで進行した。同書では1997年ごろから近年までの歴史修正主義運動をとりあげたが、当日の報告では主に近年の動きに重点を置き、民間の動きと安倍政権との共同歩調ぶりについても確認した。
 また、カナダでの在外研究から帰国したばかりの金富子氏からは、日本軍「慰安婦」問題をめぐる現地の事情について報告していただいた。

 以下に能川の当日配布資料を転載する。これは斉藤正美、山口智美と能川の3名で作成した年表をベースに、2010年以降の事項に絞ったうえで項目を追加したものである。


「歴史戦」をめぐる近年の動き


201010月 アメリカ、パリセイズ・パークに「慰安婦」碑設置

20113月 山本優美子*、「なでしこアクション」での活動開始

20112月 「テキサス親父」日本事務局設置

20118月 韓国憲法裁判所、「慰安婦」問題に関する政府の不作為を違憲とする決定

201112月 ソウル日本大使館前に「平和の碑」(少女像)設置

20124月 岡本明子「米国の邦人子弟がイジメ被害 韓国の慰安婦反日宣伝が蔓延する構図」(『正論』)

201211月 “Yes, We Remember the Facts” 広告掲載。安倍晋三らが賛同

201212月 第二次安倍政権発足
中西輝政「現代「歴史戦争」のための安全保障」(『正論』)

20132月 これ以降、全国各地で右派団体による「慰安婦」パネル展が開催されるようになる

20134月 『正論』、初の「歴史戦争」特集

20137月 アメリカ、グレンデールに「慰安婦」像設置
              「「慰安婦」の真実国民運動」結成

20141月 「論破プロジェクト」(幸福の科学)、フランスのアングレーム国際漫画祭での展示を画策

20142月 「歴史の真実を求める世界連合会」(GAHT)、「慰安婦」像の撤去を求めてグレンデール市を提訴
              在外日本大使館、領事館が「歴史問題を背景とした、いやがらせ」についての情報募集を開始
              植村バッシング、この頃より激化

20143月 自民党、「国際情報検討委員会」発足

20144月 オーストラリアでの「慰安婦」像設置への反対運動

20144月 『産経新聞』紙上で連載「歴史戦」開始

20146月 中国政府、ユネスコ「世界の記憶」に南京大虐殺関連資料、「慰安婦」関連資料を登録申請
              安倍内閣、河野談話作成過程の検証報告書を発表

20147月 国連自由権規約委員会に右派が代表団を派遣

20148月 『朝日新聞』、過去の「慰安婦」報道記事の一部を撤回
              藤岡信勝「次に取り消すのは「南京大虐殺」だ」(『WiLL』)

20149月 菅官房長官、クマラスワミ報告書について「遺憾」と発言
自民国際情報検討委員会、「性的虐待も否定された」などとする決議

201412月 外務省がマグロウヒル社の歴史教科書執筆者に「慰安婦」問題の記述変更を要求

20151月 「朝日新聞を糺す国民会議」(『頑張れ日本!』系)、朝日新聞を提訴

20152月 朝日グレンデール訴訟(日本会議系)
              朝日新聞「慰安婦報道」に対する独立検証委員会(長:中西輝政)報告書
              菅官房長官、GAHTの訴訟について「慰安婦像などの設置は、わが国政府の立場やこれまでの取り組みと全く相いれないもの」「原告の関係者を含む在留邦人とは、わが国の総領事館幹部を通じて緊密に連携を取っている」と記者会見で発言

20153月 高橋史朗、山本優美子らが参加した「テキサス・ナイト in NYC」開催
「一九人の日本人歴史家有志」によるマグロウヒル社への訂正勧告
別冊『正論』第26号「「南京」斬り

20154月 日本戦略研究フォーラム定例シンポジウム「『歴史戦』をどう闘うか」

20155月 海外の日本研究者等による「日本の歴史家を支持する声明」発表

20157月 高橋史朗、パリのユネスコ日本代表部を訪問、中国の登録申請に関して「協議」

20158月 「慰安婦に関する米学者声明への日本の学者からの返答」
              この頃から海外の研究者に右派が英文文献を送付する動きが活発に

20159月 高橋史朗「《南京30万人虐殺》に加えて《慰安婦40万人》:大虚説を掲げる中国の世界遺産申請を許すな」(『正論』)

201510月 南京大虐殺関連資料、「世界の記憶」に登録

201511月 高橋史朗「「大虐殺」登録…歴史戦争の敗北はなぜ繰り返されたか」(『正論』)
              『毎日新聞』、日本政府がユネスコに提出した意見書の執筆者が高橋史朗であることを報道

201512月 日韓外相会談、「慰安婦」問題に関する「合意」

20162月 杉田水脈、山本優美子ら国連女子差別撤廃委員会を傍聴
              杉山外務審議官、政府報告審査で「強制連行」「性奴隷」否認発言、朝日の「誤報」に責任転嫁

20165月 日本軍「慰安婦」関連資料、「世界の記憶」に登録申請

20167月 高橋史朗「「南京」の二の舞いは許されない 世界記憶遺産「慰安婦」共同申請資料の欺瞞」(『正論』)

20169月 高橋史朗「昭和天皇がレイプの主犯だって!?やっぱりヒドい世界記憶遺産の申請文書」(『正論』)

201610月 高橋、西岡力ら『歴史認識問題研究会』発足。顧問に櫻井よしこら
* 文中敬称略
(文責:能川 元一)

2016年10月31日月曜日

wamからの呼びかけ文「言論を暴力に結びつけない社会を」

10月29日、「産経新聞社、及び日本軍「慰安婦」問題を報道する各メディアの方々へ」と題した呼びかけ文を、「女たちの戦争と平和資料館」(wam)が産経新聞、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、東京新聞、共同通信、時事通信あてに送付し、30日にホームページで公表しました。 

呼びかけ文には、2016年10月5日、wamに、「朝日赤報隊」を名乗る者からwamの爆破を予告する葉書が届いたこと、さまざまな形での嫌がらせは今までも日常的あったものの、このような爆破予告は初めてであること、その背景として、最近、特にユネスコ記憶遺産(「世界の記憶」)に「『慰安婦』の声」を被害国とともに登録申請して以降、産経新聞やそのデジタルニュースでwamを名指しした記事が増加していることがあるのではないかと記されています。 

また、産経新聞が歴史認識の違いを「歴史戦」と名付け、歴史をめぐる言論を「戦争」という暴力に結び付けて語っていることの影響は計り知れないとし、「言論を暴力に結び付けない社会」の実現を、産経新聞及び報道に携わる人たちに呼びかけています。 

爆破予告といった卑劣な脅迫は許されないことです。さらにそうした行動を煽り、歴史をめぐる言論を暴力に結びつけて語るような報道のあり方も大問題です。ぜひこの呼びかけ文を読み、広げてください。

wam「産経新聞社、及び日本軍「慰安婦」問題を報道する各メディアの方々へ」 

そして、メディアの方々はこの呼びかけにぜひしっかり答えていただきたく思います。 

関連記事

2016年8月1日月曜日

アジア連帯会議の歩みについて



 2016年7月19日、早稲田大学にて日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議(以下、アジア連帯会議)の歩みについて検討する会が持たれた。これまでアジア連帯会議に参加されてきた池田恵理子、柴洋子、柴崎温子氏から、アジア連帯会議の1回(1992年)から14回(2016年)までの流れがわかるような膨大な資料コピーや、英語、ハングルを含めた決議文の全回分が提示された。さらにアジア連帯会議の開催時期、開催地、参加国、参加人数、主要なテーマなどの項目からなるわかりやすい一覧表等なども示された。
  お三方からこれまでどのように連帯会議と関わってきたか、及び連帯会議の流れなどについて興味深いお話を伺った。例えば、アジア連帯会議の流れは、国民基金が出てきたこと、その後の女性国際戦犯法廷とも切り離せないものであるということや、旧ユーゴの紛争下の性暴力やドイツ収容所の強制売春問題などに取り組む人たちから、アジアでの連帯した活動が力になったと聞いている、などアジア連帯会議が与えた影響などである。そして、今後どうやって資料を集めたり、当事者の方たちからお話を伺ったりすればいいかについて話合った。資料の収集については、運動の歴史をきちんと記録し、資料を整理することの重要性を痛感した。

 
  まとめ:斉藤正美




2016年6月21日火曜日

 去る2016年6月7日、「『国民基金』とはなんだったのか」をテーマとして研究会を開催した。2015年末の日韓「合意」に関する各種メディアの論説(リストは省略)を資料として踏まえつつ、改めて「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」を考えなおそう、という趣旨である。永山聡子による冒頭の報告の要旨は以下の通り。



簡易版レジュメ

「慰安婦」問題を巡る報道を再検証する会 読書会

2016/06/7(火)
報告者:永山聡子
テーマ:「国民基金」とはなんだったのか

話題提供:12.28「合意」を受けて、再び検討するべき、「国民基金」。この両者を類似としてみる向きもあり、その考察も理解できる。その一方で、アジア女性基金は、一応・社会党党首 が首相であった時代であったことを考えると、今回の問題と同様と簡単には整理できない。そこで、戦後日本のリベラルが、なぜこのような結論(=国民基金)を出したのか、それについて流れを確認しながら、現代日本社会におけるリベラル(左派も入ってよいが)と言われる人々の、日本軍「慰安婦」問題への対応・バッシングについて考えたいと思う。
1.社会党の一人負け  1989 年参議院選挙と 1990 年総選挙の結果、社会主義研究会の解散し、五月会以来の伝統ある派閥であったが、協会問題が正面切って問題になる前後に三つに割れた。  日本新党は 39 名を獲得、新生党は 20 名増の 55 名、新党さきがけは3名増で 13 名であった。他、公明党は 6 増で 52 名、民社党も6増の 19 名であった。 大きく減ったのは選挙前の 137 名から 77 名へ、ほぼ半数の 60 名減となったのは社会党であった(1)。この結果、第5党の党首・細川を首相とする内閣が誕生した。

(1) 共産党は1名減、社民連が横ばい。
2.「補償」に対する宮沢内閣の見解  1992 年の7月、第一次調査報告書(「朝鮮半島出身のいわゆる従軍慰安婦問題について」)を出し、当時の加藤紘一官房長官は、元「慰安婦」の方々に「補償に代わる措置を講じたい」と言明し、1993 年8月第二次調査報告書(「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」)発表。
3.第2回アジア連帯会議と細川政権の見解
 自民党崩壊後の細川政権、羽田政権においても同様の政策が引き継がれた。 ・ 「生活支援募金」構想
構想:第3回連帯会議の3ヶ月前の7月に、「実施計画の確定」から始まり、1994 年 11 月事務局解散スケジュールも準備もされていた。 構想側:ところが、1994 年6月、7月にこの構想の存在が知れ渡り、日本側支援団体も反対をかかげ、当時の広中和歌子氏(当時公明党)、上野千鶴子氏らと話し合いを行った。その際に、 「コーヒー一杯節約すれば」といった表現を使用し、募金活動に日本市民が関わることによっ て、歴史の真実を知る機会になると発言している(鈴木 2013:26)。のちに上野(1998:224) は、『ナショナリズムとジェンダー』で「わたしは何人かの仲間たちと語らって、ひそかに生存 者の生活支援のための募金運動を NGO として組織する準備を進めてきた。あまりに多くの困難と障害のためにこのアイディアはついに実現しなかった」と振り返っている。 市民運動側:この構想では、被害者への真の謝罪・賠償にはならず、国家の犯罪を隠蔽し、 かつ募金運動では歴史の真実・歴史教育にはなり得ないとした。
4.村山政権と「見舞金」構想  1994 年6月(羽田内閣発足後1ヶ月)「従軍慰安婦問題に関する補償にかかわる措置」として「青少年交流基金」創設の構想が浮上し、戦後 50 年事業の柱になると報じられた(「アジアからの留学生支援 交流基金構想が浮上 対「慰安婦」措置政府計画」『日本経済新聞』1994年6 月6日付)。さらに、自民党・社会党・さきがけ3党の連立政権村山富市(社会党委員長)内閣 は、成立して1週間後のナポリ・サミットの直後 7 月7日、「補償」にかかわる措置として「ア ジア交流センター」措置の方針を固めたと報じている(『読売新聞』『朝日新聞』、NHK など)。  この構想を先述として8月中旬に「平和友好交流事業」「民間基金(見舞金)」構想が出る(『朝 日新聞』1994 年8月 13 日、19 日)。  村山氏は「一方、与党3党で構成する、戦後処理のプロジェクトのなかに慰安婦問題小委員会をつくって検討してもらった。小委員会での検討を見ますと、2つの意見が対立しているわけです。主として自民党や官僚の意見というのは、日本は戦後の責任はサンフランシスコ条約 と二国間条約ですべて解決している、いまさらくりかえしてやるなんてことはできない。あくまでもこれは解決済みの問題だという主張である。一方、いやそれでは済まない、「慰安婦」は 女性の尊厳を深く傷つけた問題で、解決済みと無視するわけにはいかない、国が責任を持って 補償すべき。とくに社会党—新党さきがけも一緒だと思いますけど、という主張があった。しかし、 これが対立して、結論が出なかったわけです。」(「これらかのアジアを考えるために」、『慰安婦問題への問い』、pp220~221)
5.「国民基金」の発足
  「見舞金」構想が明らかになると、日本側の多くの支援団体も、反対の声をあげた。1995 年2 月、ソウルの第3回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議が開催され、「見舞金」(韓国では「慰労金」)案撤回のために反対し、ILO への働きかけなどを行った。

6.評価(資料参照……省略)

関連資料

関連政権

第 82 代 橋本 龍太郎 1996.1.11~1996.11.7 第 81 代 村山 富市 1994.6.30~1996.1.11 第80代 羽田 孜 1994.4.28~1994.6.30 第 79 代 細川 護煕 1993. 8. 9~1994. 4.28 第 78 代 宮澤 喜一 1991.11. 5~1993. 8. 9

参考文献: 大沼 保昭,和田 春樹,下村 満子(1998)『「慰安婦」問題とアジア女性基金』東信堂 石川 真澄,山口 二郎(2010)『戦後政治史 第三版 (岩波新書)』岩波書店 木村 幹(2014)『日韓歴史認識問題とは何か (叢書・知を究める)』ミネルヴァ書房. 鈴木裕子(2002)『天皇制・「慰安婦」・フェミニズム』インパクト出版会. 鈴木裕子(2004)『フェミニズムと朝鮮』明石書店 鈴木裕子(2013)『日本軍「慰安婦」問題と国民基金』梨の木舎 曽我 祐次(2014)『多情仏心 わが日本社会党興亡史』社会評論社. 徐 京植(2010)『植民地主義の暴力―「ことばの檻」から』高文研. 鄭 栄桓(2016)『忘却のための「和解」―『帝国の慰安婦』と日本の責任』世織書房. 村山富市,和田春樹編集(2014) 『デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金』青灯社. 水野 均(2000)『検証 日本社会党はなぜ敗北したか―五五年体制下の安全保障論争を問う』並木 書房. 山口 二郎,石川 真澄 編集(2003)『日本社会党―戦後革新の思想と行動』日本経済評論社. 前田 朗(2016)『「慰安婦」問題・日韓「合意」を考える (彩流社ブックレット) 』彩流社. 前田朗 , 徐京植 , 今田真人 , 鈴木裕子 , 能川元一 , 早尾貴紀 , 金富子(2016)『「慰 安婦」問題の現在―「朴裕河現象」と知識人』彩流社. 和田 春樹 (著), 大沼 保昭 ,岸 俊光 (編集) (2007)『慰安婦問題という問い―東大ゼミで「人間 と歴史と社会」を考える』勁草書房.


2016年2月4日木曜日

日韓「合意」にいたる経緯

2011.08.30 韓国憲法裁判所、韓国政府が日本軍「慰安婦」被害者の賠償請求権に関し、具体的解決のために努力していないことは「被害者らの基本権を侵害する違憲行為である」との決定[1]
2011.12.18 李明博大統領(当時)、野田佳彦首相(当時)に「慰安婦」問題の解決を提案
2012.5.24 韓国大法院(日本でいう最高裁)は初めて、日本の国家権力による反人道的不法行為による「個人の請求権は消滅していない」と判断した
2014.04~ 日韓外務局長協議を12回行う(李相徳(イ・サンドク)東北アジア局長と伊原純一アジア大洋州局長のち2015年~石兼公博局長)
2015.06.22 尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が訪日し、日韓外相会談。
日本側)打開策を示す条件として、「少女像」の撤去や、現政権で最終決着して再び外交問題にしないと事前に約束するよう求めた(朝日新聞2015.6.22
韓国側)「「蒸し返さない」との確約がとれるのか」との疑念がぬぐえず、立ち消えとなった(同上)
「被害者と国際社会が求める方向で適切に処理す」(연합뉴스2016.6.22)「今回の解決策が合意されればそれを最終決着とし、再び提起することはない」(NHK 2016.6.22)
2015.11.02 日韓首脳会談。国交正常化50周年に「慰安婦」問題の早期妥結を目指して、「将来の世代の障害にならないようにすることが重要」との認識を共有した。 (外務省)
2015.12.23 韓国の憲法裁判所で日韓請求権協定を違憲とする訴えが、国内司法対象外として却下。(ハンギョレ新聞2015.12.24
(水面下) 谷内正太郎・国家安全保障局長と李丙琪(イ・ビョンギ)・大統領秘書室長(元国家情報院長2014.72015.2
〈谷内プロジェクト〉2014.102015.6に谷内が訪韓し、慰安婦問題や韓日首脳会談の開催について話し合った。水面下の接触が明らかになることを警戒しソウルの金浦空港内で協議も。李丙琪が駐日大使時代(2013.42014.6)から「安倍首相の外交策士」の谷内局長と懇意に。2014年1月には、日本で国家安全保障局を新たにつくる谷内局長を李丙琪が助けたこともあった。(東亜日報2015.12.26
2015.12.28 日韓外相会談、「慰安婦」に関する「合意」発表。(外務省
同日 ケリー米国務長官、日韓が決着したことを「歓迎する」との声明を発表。「米国の最も重要な同盟国である日韓関係の和解を促し、改善を後押しする」。ライス米大統領補佐官は日韓和解への「包括的な解決策だ」と評価。(日本経済新聞2015.12.30
2016.1.19-21 石兼局長、訪韓し李相徳局長と極秘に会談。 FNN 2016.1.21
*2016.03.31-04.01 米国核安全保障サミットの際に、日本政府は日米韓首脳会談を開く方向で検討している。そこで正式に「合意」を文書化する方向。(日本経済新聞2015.12.30
 
(文責:李杏理)
 

[1] なお、日本政府もシベリア抑留被害者の個人請求権が日ソ共同宣言により消滅したわけではない(外交保護権を放棄したに過ぎない)と1991年3月26日第120国会参議院内閣委員会で表明している。(補足:能川元一)