2015年11月30日に当会が開催した読書会では、李杏理氏(近現代史)による報告「上野千鶴子の「慰安婦」論——日本フェミニストによる相対主義の暴力」に続いて参加者による意見交換が行われた。主な議論を紹介する(以下、敬称略)。
1. 韓国のナショナリズム・運動批判について
さらに、上野は、実際に、民衆法廷(女性国際戦犯法廷)などで「慰安婦」被害者の支援や「慰安婦」問題を広く社会に問う運動を牽引した松井やよりを評価せずに、単に1970年代のウーマン・リブ運動の中で「慰安婦」について早く語ったリブ運動や田中美津を評価しており、女性運動の評価という点で見るなら疑問がある、という意見も出された。
2. 議論の方法について
『ナショナリズムとジェンダー』も、「慰安婦」問題の文脈から離れており、浮き上がっているゆえに広く読まれた面があるのではないか、という問題提起もなされる一方、「言語論的転回」といった最新の学術用語を振りかけてもっともらしい言論に見せかけている面も指摘された。ただ、こうした文脈から浮き上がった議論については、批判は容易ではなく、かつ、丁寧な議論を要することもあり、なかなか多くの人には伝わっていきづらいのが課題であるという点についても、議論が行われた。
3. 相対主義・脱ナショナリズムにもとづく「慰安婦」論への批判の必要性
最近、「慰安婦」問題が政治問題化している中、日本では、上野が依然影響力を持ち続けており、女性史研究などで、かつては共有されていた上野への批判が見えなくなっているという指摘も出された。最近、新たに多く刊行されている「慰安婦」関連本をみると、上野と同様に、(文脈を踏まえない)議論をする論者が出始めていることも話題になった。
一方、韓国では、これまであまり注目されず、読まれてもいなかった朴裕河が読まれ始めているという指摘も出た。韓国語版では、日本語版で日本人のために入っている「言い訳」的な補足がない分、読みやすいということもあり、新鮮な視点として読まれているのではないかという主張もされた。とりわけ今年になって、起訴されたりして注目を集めているので、朴裕河への批判も重要だという意見も出た。
娼婦差別、セックスワーカーに関する議論がやりづらい、やってこなかったことの弊害が出ているのではないかという意見も出された。 そもそも、韓国では、セオウル号、国定教科書etcと次々と大きな問題が起こり、「慰安婦」問題には、一般論で言えば、近年はそう大きな関心が寄せられて来なかったという指摘もなされ、それについての議論も行われた。
結論として、上野千鶴子や朴裕河のような、相対主義・脱ナショナリズムにもとづく「慰安婦」論への批判は、丁寧に行っていく必要があるという認識が共有された。
(まとめ:斉藤正美)
1. 韓国のナショナリズム・運動批判について
- 韓国でも上野千鶴子が朴裕河受け入れの土壌を作った?
- 「加害国民」の視点を欠落させた韓国の運動批判
さらに、上野は、実際に、民衆法廷(女性国際戦犯法廷)などで「慰安婦」被害者の支援や「慰安婦」問題を広く社会に問う運動を牽引した松井やよりを評価せずに、単に1970年代のウーマン・リブ運動の中で「慰安婦」について早く語ったリブ運動や田中美津を評価しており、女性運動の評価という点で見るなら疑問がある、という意見も出された。
- フェミニズム運動の歴史を捨象している
2. 議論の方法について
- 主張が一貫しない
- 文脈から浮き上がった議論
『ナショナリズムとジェンダー』も、「慰安婦」問題の文脈から離れており、浮き上がっているゆえに広く読まれた面があるのではないか、という問題提起もなされる一方、「言語論的転回」といった最新の学術用語を振りかけてもっともらしい言論に見せかけている面も指摘された。ただ、こうした文脈から浮き上がった議論については、批判は容易ではなく、かつ、丁寧な議論を要することもあり、なかなか多くの人には伝わっていきづらいのが課題であるという点についても、議論が行われた。
3. 相対主義・脱ナショナリズムにもとづく「慰安婦」論への批判の必要性
最近、「慰安婦」問題が政治問題化している中、日本では、上野が依然影響力を持ち続けており、女性史研究などで、かつては共有されていた上野への批判が見えなくなっているという指摘も出された。最近、新たに多く刊行されている「慰安婦」関連本をみると、上野と同様に、(文脈を踏まえない)議論をする論者が出始めていることも話題になった。
一方、韓国では、これまであまり注目されず、読まれてもいなかった朴裕河が読まれ始めているという指摘も出た。韓国語版では、日本語版で日本人のために入っている「言い訳」的な補足がない分、読みやすいということもあり、新鮮な視点として読まれているのではないかという主張もされた。とりわけ今年になって、起訴されたりして注目を集めているので、朴裕河への批判も重要だという意見も出た。
娼婦差別、セックスワーカーに関する議論がやりづらい、やってこなかったことの弊害が出ているのではないかという意見も出された。 そもそも、韓国では、セオウル号、国定教科書etcと次々と大きな問題が起こり、「慰安婦」問題には、一般論で言えば、近年はそう大きな関心が寄せられて来なかったという指摘もなされ、それについての議論も行われた。
結論として、上野千鶴子や朴裕河のような、相対主義・脱ナショナリズムにもとづく「慰安婦」論への批判は、丁寧に行っていく必要があるという認識が共有された。
(まとめ:斉藤正美)