9月1日に行われた「『慰安婦』問題をめぐる報道を再検証する会」における能川元一の報告の概要は以下の通り。
1. The New York Times
・ “Shinzo Abe Echoes Japan’s Past WWII Apologies but Adds None of His Own”, by Jonathan SOBLE, AUG. 14
安倍談話が「キーワード」をとりこむ一方で総理自身の新たな謝罪を含んでいなかったこと、代わりに「あの戦争には何ら関わりのない」世代に「謝罪を続ける宿命」を背負わせてはならないと加えたことを指摘。西洋の植民地主義への言及は日本の行為をよりマシなものと見せる意図があったように見える、とも。 ・ “Abe’s Avoidance of the Past”, by Howard W. FRENCH, Aug. 18, op-ed.
安倍談話は戦争の動機と日本軍の蛮行についてごまかしており、先行する謝罪を引用しただけ、と指摘。翌15日の明仁の式辞と対比し、村山元首相の批判を引用。2013年の靖国参拝や安保法制、岸信介の経歴などの背景を解説。中国・韓国側の要因も指摘しつつ、和解を進める義務が日本にはあり、和解への最短の途は否認と自己正当化をやめることだと指摘。 2. The Washington Post ・“Mr. Abe’s peace offering on Japan’s past”, by Editorial Board, Aug.14
安倍談話は日本が「繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」してきたとしているが、安倍自身は繰り返さなかったとしつつ、当初危惧されていたほどナショナリスティックではなかったと評価。
・“With WWII statement, Japan’s Abe tried to offer something for everyone”, By Anna Fifield, Aug. 14
安倍談話はアジア諸国に対して「隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み」と述べ、アメリカなどの連合国には「恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられた」ことへの謝意を述べる一方、日本の右派に向けては(解釈改憲による集団的自衛権行使の解禁によって)歴史を背景化しようとしたと指摘。「皆を喜ばせようとして誰も喜ばない談話になった」、というジェラルド・カーティスのコメントを引用。「二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去」の受動態の構文が責任を回避しているとも指摘。 3. The Times ・ 原文は参照できなかったため、時事通信の報道を紹介した。
「戦争の罪と向き合わず」=70年談話で英紙社説
将来世代に「謝罪を続ける宿命」を背負わせてはならない、とした点を強調し、中国や韓国を怒らせるリスクをおかした、と指摘。日本軍「慰安婦」問題については「日本軍当局が女性たちを前線の売春施設で強制使役したこと—彼が一貫して否認してきたこと—を認めなかった」と。 5. BBC ・ “Japan WW2: PM Shinzo Abe expresses 'profound grief'”, 14 Aug.
東京特派員 Rupert Wingfield-Hayes の分析を引用。先行する謝罪を踏襲すると同時に、未来世代が謝罪し続けるべきではないとし、日本の20世紀の歴史を「反植民地」的と描こうとする綱渡りを行った、と。また世界は日本に謝罪を要求し続けるべきでないと考えていることも明らかにした、と。 中国及び韓国からのプレッシャーだけでなく、国内のナショナリストの圧力も受けていたことを指摘し、日本軍「慰安婦」に直接言及しなかったことにも注目。 6. Financial Times ・ “Shinzo Abe upholds Japan war apology but shifts context sharply”, by Robin Harding, Aug.14
過去の談話を踏襲しながら、西洋の植民地主義への抵抗というナショナリスト的ナラティヴの中にその謝罪を据え直し、文脈を変えることによって自身の明確な謝罪を避けた、と評価。BBCと同じく日露戦争を称揚したことに言及。日本軍「慰安婦」の苦しみに言及しなかったことを指摘する一方、戦時性暴力については “a fresh acknowledgement” を行ったと評価。 7. The Wall Street Journal ・ “Japan’s Abe Stops Short of Direct Apology Over World War II: Prime minister expresses ‘condolences’ for Japan’s actions during the war”, by Eleanor Warnock, Aug.14
自分自身の言葉による謝罪には至らなかったこと、反省の言葉に挑発的なメッセージを混ぜ込んでいることを指摘。「植民地支配から永遠に訣別(……)しなければならない」といいつつ朝鮮半島の植民地化に言及しなかったこと、「侵略」という単語は用いたが侵略の主体は明確にしなかったことも指摘。 8. Foreign Policy ・ “Shinzo Abe Regrets but Declines to Apologize for Japan’s WWII Actions”, by Elias GROLL, Aug. 14
談話は明確な謝罪を含んでいなかったとの評価。また村山談話と小泉談話が「植民地支配と侵略」というフレーズによって暗に朝鮮半島と中国への加害に言及していたのに対し、安倍談話には両者をセットにした「植民地支配と侵略」というフレーズがないことに注目。 9. Le Monde ・ “Japon : Shinzo Abe évoque les « souffrances » de la guerre mais évite les excuses personnelles”, 14. 08
やはり「過去の謝罪は踏襲したが、個人的な謝罪には踏み込まなかった」という評価。 10. Frankfurter Allgemeine ・ “Rede zum Kriegsende: Entschuldigung – aber das Misstrauen bleibt”, Patrick WELTER, 08/14
「周辺諸国と国内の右派の双方にいい顔をしようとした」という評価。謝罪が安倍自身の言葉でないことを指摘。西欧の植民地主義や日露戦争に言及することで、右派に迎合した歴史解釈を示した、と。安倍が侵略の「定義」を歴史家に委ねると発言したことにも言及。日本軍「慰安婦」問題や朝鮮半島の植民地化に直接言及しなかったことも指摘。毎日新聞の世論調査(47%が「悪い戦争だった」とする一方44%が「日本はもう十分謝罪した」と回答)を引用。 11. NHKの「70年談話」特設サイト「中国・韓国など海外反応」
・ワシントン・ポストの社説が「談話を評価する論調」と。 ・米、英、仏のメディアの「伝え方」は報じるがドイツメディアの反応には触れず。 ・アメリカメディアについてはワシントン・ポストの東京発の記事、ウォール・ストリート・ジャーナル電子版の記事を紹介。イギリスメディアについてはBBC、スカイニュース(衛星テレビ局)の報道を紹介。フランスについてはル・モンドおよびフランス24(テレビ)の報道を紹介、批判的な評価も伝えている。
・このように、おおむね欧米主要メディアの反応を歪めることなく伝えているとは言えるが、ドイツメディアの反応を伝えていないことには留意すべきであろう。
(文責:能川 元一)
安倍談話が「キーワード」をとりこむ一方で総理自身の新たな謝罪を含んでいなかったこと、代わりに「あの戦争には何ら関わりのない」世代に「謝罪を続ける宿命」を背負わせてはならないと加えたことを指摘。西洋の植民地主義への言及は日本の行為をよりマシなものと見せる意図があったように見える、とも。 ・ “Abe’s Avoidance of the Past”, by Howard W. FRENCH, Aug. 18, op-ed.
安倍談話は戦争の動機と日本軍の蛮行についてごまかしており、先行する謝罪を引用しただけ、と指摘。翌15日の明仁の式辞と対比し、村山元首相の批判を引用。2013年の靖国参拝や安保法制、岸信介の経歴などの背景を解説。中国・韓国側の要因も指摘しつつ、和解を進める義務が日本にはあり、和解への最短の途は否認と自己正当化をやめることだと指摘。 2. The Washington Post ・“Mr. Abe’s peace offering on Japan’s past”, by Editorial Board, Aug.14
安倍談話は日本が「繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」してきたとしているが、安倍自身は繰り返さなかったとしつつ、当初危惧されていたほどナショナリスティックではなかったと評価。
・“With WWII statement, Japan’s Abe tried to offer something for everyone”, By Anna Fifield, Aug. 14
安倍談話はアジア諸国に対して「隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み」と述べ、アメリカなどの連合国には「恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられた」ことへの謝意を述べる一方、日本の右派に向けては(解釈改憲による集団的自衛権行使の解禁によって)歴史を背景化しようとしたと指摘。「皆を喜ばせようとして誰も喜ばない談話になった」、というジェラルド・カーティスのコメントを引用。「二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去」の受動態の構文が責任を回避しているとも指摘。 3. The Times ・ 原文は参照できなかったため、時事通信の報道を紹介した。
「戦争の罪と向き合わず」=70年談話で英紙社説
【ロンドン時事】15日付の英紙タイムズは第2次大戦終結70年に関し社説を掲載した。14日の安倍晋三首相の戦後70年談話などについて、「恥ずべきほどなまでに、(戦争中の)日本の罪ときちんと向き合わなかった」と論評した。 社説は「原爆忌や終戦記念日で、日本は戦争の加害者というより、被害者であるという神話を維持している」と指摘。この「神話」が克服されなければ、周辺諸国との関係や日本の外交をゆがめると警告した。 一方、連合軍は「野蛮な体制」が勝利した場合にもたらされる恐ろしい結果を防ぐため戦ったと主張した。(2015/08/15-21:20)4. The Guardian ・ “Japanese PM Shinzo Abe stops short of new apology in war anniversary speech”, by Justin McCurry, Fri. 14 August
将来世代に「謝罪を続ける宿命」を背負わせてはならない、とした点を強調し、中国や韓国を怒らせるリスクをおかした、と指摘。日本軍「慰安婦」問題については「日本軍当局が女性たちを前線の売春施設で強制使役したこと—彼が一貫して否認してきたこと—を認めなかった」と。 5. BBC ・ “Japan WW2: PM Shinzo Abe expresses 'profound grief'”, 14 Aug.
東京特派員 Rupert Wingfield-Hayes の分析を引用。先行する謝罪を踏襲すると同時に、未来世代が謝罪し続けるべきではないとし、日本の20世紀の歴史を「反植民地」的と描こうとする綱渡りを行った、と。また世界は日本に謝罪を要求し続けるべきでないと考えていることも明らかにした、と。 中国及び韓国からのプレッシャーだけでなく、国内のナショナリストの圧力も受けていたことを指摘し、日本軍「慰安婦」に直接言及しなかったことにも注目。 6. Financial Times ・ “Shinzo Abe upholds Japan war apology but shifts context sharply”, by Robin Harding, Aug.14
過去の談話を踏襲しながら、西洋の植民地主義への抵抗というナショナリスト的ナラティヴの中にその謝罪を据え直し、文脈を変えることによって自身の明確な謝罪を避けた、と評価。BBCと同じく日露戦争を称揚したことに言及。日本軍「慰安婦」の苦しみに言及しなかったことを指摘する一方、戦時性暴力については “a fresh acknowledgement” を行ったと評価。 7. The Wall Street Journal ・ “Japan’s Abe Stops Short of Direct Apology Over World War II: Prime minister expresses ‘condolences’ for Japan’s actions during the war”, by Eleanor Warnock, Aug.14
自分自身の言葉による謝罪には至らなかったこと、反省の言葉に挑発的なメッセージを混ぜ込んでいることを指摘。「植民地支配から永遠に訣別(……)しなければならない」といいつつ朝鮮半島の植民地化に言及しなかったこと、「侵略」という単語は用いたが侵略の主体は明確にしなかったことも指摘。 8. Foreign Policy ・ “Shinzo Abe Regrets but Declines to Apologize for Japan’s WWII Actions”, by Elias GROLL, Aug. 14
談話は明確な謝罪を含んでいなかったとの評価。また村山談話と小泉談話が「植民地支配と侵略」というフレーズによって暗に朝鮮半島と中国への加害に言及していたのに対し、安倍談話には両者をセットにした「植民地支配と侵略」というフレーズがないことに注目。 9. Le Monde ・ “Japon : Shinzo Abe évoque les « souffrances » de la guerre mais évite les excuses personnelles”, 14. 08
やはり「過去の謝罪は踏襲したが、個人的な謝罪には踏み込まなかった」という評価。 10. Frankfurter Allgemeine ・ “Rede zum Kriegsende: Entschuldigung – aber das Misstrauen bleibt”, Patrick WELTER, 08/14
「周辺諸国と国内の右派の双方にいい顔をしようとした」という評価。謝罪が安倍自身の言葉でないことを指摘。西欧の植民地主義や日露戦争に言及することで、右派に迎合した歴史解釈を示した、と。安倍が侵略の「定義」を歴史家に委ねると発言したことにも言及。日本軍「慰安婦」問題や朝鮮半島の植民地化に直接言及しなかったことも指摘。毎日新聞の世論調査(47%が「悪い戦争だった」とする一方44%が「日本はもう十分謝罪した」と回答)を引用。 11. NHKの「70年談話」特設サイト「中国・韓国など海外反応」
・ワシントン・ポストの社説が「談話を評価する論調」と。 ・米、英、仏のメディアの「伝え方」は報じるがドイツメディアの反応には触れず。 ・アメリカメディアについてはワシントン・ポストの東京発の記事、ウォール・ストリート・ジャーナル電子版の記事を紹介。イギリスメディアについてはBBC、スカイニュース(衛星テレビ局)の報道を紹介。フランスについてはル・モンドおよびフランス24(テレビ)の報道を紹介、批判的な評価も伝えている。
・このように、おおむね欧米主要メディアの反応を歪めることなく伝えているとは言えるが、ドイツメディアの反応を伝えていないことには留意すべきであろう。
(文責:能川 元一)